Liberal Climber

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EXTRA OXYDRIVEはサイクリストに有効か?

有酸素運動で持久力を高めたい方に”というキャッチコピーでサイクリスト、ランナーなどでたびたび取り上げられているサプリメント

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息が上がりにくくなった、後半にペースダウンしにくくなったなどの感想は見かけるが、呼吸持久力って何?エビデンスの観点で検証する。

 

まず、販売元のグリコのHPをみると、キサントフィルによる抗酸化作用と赤血球膜への親和性を謳っている。パプリカキサントフィル12.5mgを4週間内服すると血漿中、赤血球中のキサントフィル濃度が上昇することを質量分析を用いて測定し、論文にしている(J Olco Sci 2015)。抗酸化能に関しては活性酸素の一種であるヒドロキシラジカルとの反応産物を同様に質量分析にて測定している(J Agric Food Chem 2016)。活性酸素はごく短時間で消えるため直接測定することはできず、footprintとして測定することは実際よく行われる手法である。

 

ここまでは良いが、その後活性酸素による赤血球の損傷に対して抗酸化能が作用しているかのような文面となっている。そしてプラセボ群を置かずに、パプリカキサントフィル12.5mgを摂取することで運動時の酸素摂取量、心拍数が低下した結果を出している。グリコのPDF版のほうにはプラセボ群をおいてキサントフィル9mgを4週内服して酸素摂取量が低下したということは論文にせず学会で発表したとの記載はある。

 

この酸素摂取量、心拍数低下が事実としても本当に抗酸化作用のためで良いのか?

というのも、抗酸化作用を期待してビタミンCを摂取すると、内因性の抗酸化機構としてミトコンドリアの新生が減少し、プラセボ群と比較してトレーニングに対する持久力の向上がかえって得られにくくなるという報告もある(Oral administration of vitamin C decreases muscle mitochondrial biogenesis and hampers training-induced adaptations in endurance performance. Am J Clin Nutr 2008)似たような報告がPNAS 2009にもあり(Antioxidants prevent health-promoting effects of physical exercise in humans)。

 

ではどのような機序になるか?

残念ながらパプリカキサントフィルに含まれるカプソルビン、カプサンチン、ククルビタキサンチンAと有酸素運動に関する論文はみつけられなかった。

これで終わってはつまらないので、記事の中で比較対象にされていたアスタキサンチンについて調べる。これは甲殻類に含まれる赤い色素で抗酸化物質としてDHCなどからサプリメントとして販売もされている。

アスタキサンチンと持久運動との報告はいくつかみられる。その中でも、Effect of astaxanthin on cycling time trial performance. Int J Sports Med 2011では、アスタキサンチンを4週間内服すると20kmロードバイクタイムトライアルが121秒短縮し、パワーが20W向上したという驚異的な報告もある。この論文の中では機序は不明とされている。

他の論文をみると、

アスタキサンチン摂取により、脂肪酸をエネルギー源として使用し、水泳後の血中非エステル化脂肪酸、血糖値が高く保てた

アスタキサンチン摂取により、骨格筋内のPGC-1αの発現が増え、ミトコンドリアによる有機代謝が活性化される

・PGC-1がミトコンドリア新生を促す

PGC-1は”トレーニングは酸素不足との戦いである”の中でも紹介されており、運動により誘導され、持久力向上につながる転写因子である。

 

パプリカキサントフィルにアスタキサンチンと類似の作用があるかは不明であるが、上記知見を踏まえると、

4週間以上内服継続することで、PGC-1αの発現、骨格筋内でのミトコンドリア新生、脂肪酸の利用率向上によって、有酸素運動時の筋持久力、血糖維持が可能(→息が切れにくい、心拍数低下)となり、運動能力が向上する

という説は考えられる。