献血と有酸素運動能力の関係について
11/28に400mLの献血をしてきた。献血は今回で通算61回目。高校生のころからよくやっていた。
昨日のしんどさがあり、献血することで身体的にどのようなメリットがあるのか調べてみた。googleで検索すれば、”新陳代謝”、”老廃物の除去”、”デトックス”などがヒットするが、いずれも医学的根拠は乏しいとのこと。そもそも新陳代謝も老廃物も医学用語ではないし、定義もされないものだから根拠は出しようがない。
そこで、PubMedで検索し、興味深い論文を見つけた。
Effect of repeated whole blood donataions on aerobic capacity and hemoglobin mass in moderately trained male subjects: A randomized controlled trial
Meurrens et al. Sports Medicine - open, 2016 2:43
中等度運動をしている男性において、繰り返し行う全血献血の有酸素運動能とヘモグロビン量に対する効果。ランダム化試験
Sports Medicine - openはインパクトファクター1.3であり、決して高くはないが、運動生理のジャンルとしては致し方ないと思われる。
ベルギーで週に1-6時間の運動を行っている健康男性24人を、献血群16人、プラセボ群8人にランダム化して3ヶ月毎に470mL全血献血を3回行った。
-1週、2日後、1週間後、2週間後、4週間後に採血と自転車エルゴメーターでVO2peakを測定する。測定方法は70Wから開始し、2分毎に30Wずつ負荷を上げ、疲労困憊になるまで行う。190W時点で、最大未満強度としての乳酸値も測定。運動は7ヶ月間で5回×3セットで計15回。
対象者は平均で25-27歳、体重73-75kg、VO2peak 56ml/kg/min。試験開始時の最大負荷は約320W。測定方法としては柿木氏の行うLT値(≒FTP)に近い。
これまで単回の献血の効果の報告は複数あるが、繰り返しという点が新しい。エリート競技者の場合は献血によるパフォーマンス低下を嫌がり、なかなか参加者を集められないという意味では妥当な試験デザイン。ただ、運動の頻度が4週間後から2ヶ月近く空いており、継続的に運動効果を高めるという意味では不十分な気がする。
結論からいえば、
・1回の献血でも最大出力(最大-4%)、VO2peak(最大-10%)、総ヘモグロビン量(最大-7%)は4週間後まで低下した。
・繰り返しの献血はトレーニングに対する適応を弱める。プラセボ群では運動能の改善がみられたが、献血群では改善がみられなかった。
・酸素運搬に関わる重要な因子(ヘマトクリット、ヘモグロビン濃度、総ヘモグロビン量、フェリチン、鉄、赤血球)は1回の献血で低下し、献血を繰り返すことでより低下していく。
・最大未満強度(≒テンポ走)における乳酸値は献血の影響を受けなかった。両群ともに運動を繰り返すことによって徐々に乳酸値が低下した。
初回献血でも血液的には3ヶ月経過しても前値までは回復していない。有酸素運動能は単回献血では4週時点では回復しないが3ヶ月では回復する。試験期間中は意図的な鉄の補給は行っていない。
つまり、1回の献血でも有酸素運動能に対する負の影響は大きい。
ではメリットは?いわゆる新陳代謝に相当するものとして、造血ホルモンであるエリスロポエチン産生量(Epo)を測定している。初回献血後はEpoは一時的に増加するが4週後には前値に戻る。3回目献血前時点では試験開始前よりは優位にEpoは上昇している。ただ、総ヘモグロビン量が7ヶ月時点で試験開始前と同程度で、VO2peakは低下していっているので、デメリットのほうが大きい。Epo上昇しているときに鉄剤を投与すれば結果は異なるかもしれないが。
ヘモグロビン濃度は2日目が最低だが、鉄はⅠ週後、フェリチンは4週間後が最低になっている。
最終的な結論としては、競技者は献血するならパフォーマンスに影響しない血漿献血にしましょう、ということだった。
昨日実感した、テンポ走は問題ないけどVO2maxレベルがしんどかったことは論文の結果とまさに合っている。この論文を読んだ帰りにドラッグストアで鉄のサプリメントを買いました。。